「割った石の面を見る最初の人間なんだなって」 - 島本健一郎さん(後編)

「割った石の面を見る最初の人間なんだなって」 - 島本健一郎さん(後編)

この記事は後半です。

インタビュー前半はこちら。ROCK ENDの制作についてお話を伺いました。

「ROCK ENDの"座り"にこだわっています」 - 島本健一郎さん(前編)

庵治石は「作り手の期待に応えてくれる石」

島本石材工業について
島本石材工業さんと言えば、『磨き』の技術の高さで知られていますね。
島本さん

磨きに関しては、結構産地の中で一目置いていただいています。でもそれは先代の頃の職人さんが一生懸命やって、築き上げてきたもので、その人固有の技術です。そして今はもうその職人さんはいません。
自分で磨くようになると、同じ道具を使って同じ工程でやっているのに「なんじゃこれ?」って思うくらい違うんです。完成したものや作業工程は、もう何回も見てきたので、工場の蛍光灯や、水銀灯の光が石にどのように映るかっていうのは、やっぱり覚えてるんですよね。「この石だったらこのぐらい光ってた」って。でも、いざ実際やってみると・・・。
石を、当たり前のように光らせる事の難しさを改めて感じています。

磨きの難しさについて教えて下さい。
島本さん

例えば、自動研磨っていうのがあるんですけど、自動っていうぐらいだから一回セットしたら、色んな番手があって何工程かある研磨作業を、勝手に最後までやってくれるんです。でもうちの職人はずっと研磨機の横についてたんですよ。
艶っていうのは、前の下地がとても大事なので、前の工程を見ていないといけない。つまり、例え機械であったとしても、結局始めから最後までずっとそこに居て、石の表面の様子を番手ごとに見ていないと、水の量であるとか、砥石の加減っていうのが判断できない・・・ということなんです。

石種も多く扱っていらっしゃいますが、庵治石はどのような石でしょう?
島本さん

石目を揃えたりとか高価である、といった部分で難しさもあるんですけど、作り手からすると、ある意味作りやすいんですよ。期待に応えてくれるというか、思った通りになる石なんです。目の大きな石だと、単純に思ったようにはならないんです。すごく時間がかかったりとか、フラストレーションが溜まったり・・・多分そういうのはそのまま製品に反映されてしまったりするんですよね。

もちろんどんな石でもそうならないよう気を付けなければならないのですが、庵治石はそういうのが少ない。ちゃんと僕でもきれいに磨けて、加工できて作れる・・・っていうのは、「やっぱり庵治石だな」と思いますね。

島本石材工業さんとして今チャレンジしていることはありますか?
島本さん

新しい事業を始めようとしています。何人かには「島本君、石屋さんだったら、ちゃんと石屋をやって行ったほうがお客さんも安心するんちゃう?」と言われました。それはその通りだと思うし、今でも葛藤はあるのですが、今が残りの人生の中で最も若い時ですから「やるなら今!」と、自分にできること、面白いことをやろう、と。

そういう考えもあって、新しいロゴでは「(有)島本石材工業」の「有」を「遊」にしています(笑)。

いつもと同じ声が、いつもと同じ感じで聞こえてくる環境で気持ちをリセット

「職人 島本 健一郎」について
石工を志したのはいつ頃ですか?
島本さん

高校出てすぐ大阪へ行ったんですけど、その時には声の仕事をしたかったんですよ。それで一年間その学校へ行って勉強をしたんです。その最後に『演じる』っていう機会があって、舞台に上がって・・・まぁ見てくれてる人も身内ばっかりでしたけど、それがもう思いのほか感動したわけです。すげえなと。そこで、じゃあ演劇の方も学びたいなあっていうので、学校を卒業後に、豊中の辺りで新しく立ち上げる劇団の初期メンバーに入り・・・3年間ぐらいですかね?色々舞台に出て・・・という風に過ごしていました。

妻もその時一緒に勉強してたんですけども、彼女の方は裏方が面白いというので、舞台監督の横について色々やってたんです。そして、結婚するという事になって、なかなか舞台だけでは食べていけんなっていうので、彼女に相談したら「石屋さんを継いでやりましょう」となり、こっちに戻って来ました。

演劇での経験が今に活きていると感じる事はありますか?
島本さん

それが伝わってるかどうかわからないんですけど、お客さんに何かを説明する時に、どうやれば伝わりやすいかを考えたり、主観的・一方的じゃなくて客観的に物事を考えるのは得意かなっていう風に思っています。言葉選びもその中の一つかもしれないですね。

加工の道具で好きな道具・好きな作業はありますか?
島本さん

一番好きな道具・・・。グラインダーかな?グラインダーのペーパーっていうのがあるんですけど、ROCK ENDの割った面の仕上げにも使っています。切削の後の面につく刃の跡を除きなだらかにしつつ、そこまで艶は出ない・・・っていう微妙なマットな仕上げが好きですね。

メーカーとかにこだわりは無いんですけど、先代が使ってた道具を、そのままずっと使ってますね。

こだわりの道具・必須アイテムはありますか?
島本さん

岡田さんに似てるんですけども、音とか音楽、です。スマホに入っている音楽や、ポッドキャストを聞いたりとかしてるんですけど、基本的にはYoutubeのとあるグループの雑談をずっと聞いてます。何気なく耳のところで音がしてるのが安心するんですよ。で、逆に集中ができる。それをずっと続けてます。
週に1回新しいのを配信してくれているんですけど、何回も聞いているものもあります。不安とか焦りとかがあるときでも、いつもと同じ声が、同じ感じで毎日いてくれてる安心感。気持ちがそこで一回落ち着くというか、リセットされて今日を過ごせる・・・という感じがします。

石という素材に対する想いを教えて下さい。
島本さん

工場で石を見て何かを感じるっていうのはあんまり無いです。ただ、地球というか、歴史というか・・・そういったものを感じる瞬間はあります。ROCK ENDでもそうですが、石を割った瞬間っていうのは、何千万年ぶりに空気に触れた瞬間なんだな、と。本来この面はこれから先ずっと見えないはずだった面で、それを見たのは僕が一番初めなんだな、っていうのは、ふとした瞬間に感じることはあります。

(写真左・右上)庵治石以外の石も数多く手がけている
(写真右下)料理屋の頃から代々使っている椅子。100年以上使っているが今なお現役