「仕事はやっぱり楽しまんと」 ー 中山忠彦さん(前編)

「仕事はやっぱり楽しまんと」 ー 中山忠彦さん(前編)


自分が作りたいと思って作ったものを、喜んで買ってくれる人がおるのは嬉しい

AJI PROJECTの製品づくりについて
中山さんがAJI PROJECTで手がけている製品について教えて下さい
中山さん

うん。CAVEにBOTTLE、POUND、QUATER、BEACON VASE・・・かな。

たくさんありますね。作る上で気を使っているポイントやこだわっているポイントはありますか?
中山さん

なるべく荒さを無くして、できる限り精密に作っていこう、と思いながらやってます。石英・長石・雲母・・・庵治石の結晶が1mmとかの大きさなので、「これ以上やったら割れてしまう」という限界はあるんやけど、それでもやっぱり丁寧に・・・ですね。図面を見て作って、それを目と手で覚えていく・・・という感じです。

AJI PROJECTは職人さんからの提案を受けて、デザイナーさんと打ち合わせをしながら作りあげてきました。中山さんが「作りたい」と思った理由やきっかけについて教えて下さい。
中山さん

花器・・・FLOWER VASEは、前から作りたいと思ってたので、色んなサイズのものを試作していました。 例えばBOTTLEは、昔のヴィンテージものの焼き物を見て「これ、石で作ったらどんな風になるか」という興味からスタートしたんです。骨董屋に行って、えぇ感じのものを探して買うてきて・・・BOTTLEの場合はオランダのものだったと思うけど、それをちょっとずつ変型させながら作りあげていきました。陶器とは違うけん、石の色んな表情がクラフトの中に出せたら面白いかな?と、そんなことを考えながら、ですね。昔は石で出来ないから陶器で作っていた。その中には今の石材加工技術なら可能なものがあるはず。だから昔のものの中にヒントがあるんやと思ってます。

AJI PROJECTが始まって10年以上になりますが、この10年での変わってきたことはありますか?
中山さん

こういうクラフトを作っていくんは今の時代には合うとんかな、と思います。ウチの場合、元々お墓の仕事はそんなにやってなかったんもあるんやけど、どんどんどんどんこういったジャンルに特化していって、それで今までメシが食えとるんやけん、良かったかなと(笑) お墓も灯籠もお客さんが喜んでくれたら嬉しいんやけど、やっぱり作り手としては、自分の思ったもんを作る方が楽しいし、それが市場に出て、喜んで買ってくれる人がおるのはもっと嬉しい。

個人的にも、お墓いたら人間の”生き死に”に関係するもので重たいけど、クラフトだったら楽しいしね、うん。 それで、世界中の人が振り向いてくれる可能性がある。実際、客層もばっと広がった。だから個人でもインスタやったり、フェイスブックやったりして、どんどんどんどん広げていっきょるんです。

POUNDの縄掛け作業。手慣れた様子で一つ一つ丁寧に仕上げられていく。縄の掛け方も、中山さんがトライアンドエラーを繰り返しながら完成させた

工事の現場監督から「石屋さん」に

石屋さん、石工職人という仕事について
地元のご出身ですが、大学卒業後すぐに石材業に就かれたのですか?
中山さん

大学卒業後、東京の中堅のゼネコンに就職して、常磐自動車道とかの道路改良工事やトンネル工事とかの現場監督をしとったんです。

27才の時・・・宇都宮におったときやったと思うけど、なんかもうそろそろ帰ってもええか、と思うようになって、それでこっち帰ってきました。
別に最初から石屋をやろうとは思って無くて、高松で何か仕事見つけたらええな・・・くらいだったんです。ちょうど東部浄水場の建設の時で、水道局で半年くらいかけて入札のための積算書を作っていた時に土建屋さんを紹介されて・・・なので3年くらいは高松で同じような仕事をしていました。 そして30才になり、結婚を機に父がやっていた石屋の仕事をするようになったんです。

石屋の仕事は小学生の頃から手伝いよったんです。今はもうありませんが当時は朝の4時からフイゴで火を付けてノミ焼いて・・・というのを親父と一緒にやってて・・・磨く仕事とか削る仕事など一通り高校の時までに身につけとったんです。


お墓や彫刻など数ある職種の中から丸物(まるもの)を選んだのは何故でしょう?
中山さん

当時は今ほど機械がなかったけん、丸いもんは手でする仕事やったんです。値段も四角いもんの3倍はしよったんです。親父は元々お墓さんをしよったんやけど(墓石製造業)、そういうわけで丸いもんに特化していったんです。そのうち機械も出てくるようになってきて、「親父がしよったみたいなえらい目せんでも、石屋できるんちゃうんか」と思い初めて・・・(笑)

でも、あの頃は景気が良かったけん仕事もようけあったし、その始めの1年間にしっかり石叩くことを教えてもろとったのがあるけん、仏さん彫ったりも出来るようになったと思ってます。

機械化が進んでも変わらない難しさはありますか
中山さん

やっぱ曲線やな。30代の忙しい頃は、同じ形状のもんを全部手仕事で10個20個と数を作らないかんかった。それが難しかった。手作業だから一度形を決めても、灯篭でも何でもノミを使こうてやってたら、ちょっとずつ変わってしまう。人によっても差がでるけん、当時職人がウチに十人ぐらいおったんやけど、一人ずつ形が違う(笑)。

それで機械を入れて『ウチの形』を決めてやり始めたんですけど、大量生産の時代から徐々に独自のものを求められる時代になってきたんです。灯篭でも線香立てでも小売店が一つずついろんな形を独自に考えて図面書いて「作ってくれ」と持ってくる仕事が増えてくるようになって・・・そうすると一件一件、一分二分(長さの単位)の差があるんです。それを一つずつコツコツやるというのは、機械になってもやっぱり難しい。手間掛かるんです。CADもまだ始めの頃やったけん、小売店側もCADの図面に慣れてのうて、一分でも3mmでもどっちでもええわいう感じで書いたおかしな図面があったり・・・そんな時代でした。

特に小さいものの曲線は、1mm 2mmの差がものすごく効いてくるから見た感じがぱっと変わる。お墓みたいにでっかい30cm角とかのものが1mm 2mm大きくなっても小さくなっても分らんけどの。曲面はそうそういう難しさがあるよね。

地元イベント風物詩「中山さんの二胡演奏」

趣味のはなし

むれ源平石あかりロード来場者の前で二胡演奏をする中山さん。写真右は愛猫の『ぼんた』君。

地元のイベント「むれ源平 石あかりロード」では、二胡を弾く中山さんの姿が風物詩のようになっています。
中山さん

50才の時に、地元のスーパーやそば屋のおやっさん連中がゴルフ仲間が「二胡、初めてみんか」と言い出して、「中国人の講師一人雇うのにお金掛かるけん、習う人数が多い方が(一人ひとりの負担が少なく)えぇ」言われて誘われたのが最初です。やると言うたら「ほんだら高松の楽器店に10万円で二胡売っとるけん買うて来い」言われて・・・(笑) でも、誘われただけのもんに10万円も出せんわ、と思っていたら、たまたま妹の旦那が中国行く機会があって、「二胡があったら買うてきてくれ」と言うたらホンマに買うて来たんです。そしたらもうやるしかない。だから、自分がやりたいと始めたわけでは無かったんです。

それで皆でやり始めたんですけど、他の皆は3年くらいで辞めてしもうて・・・。私はというと自分で結構高価な二胡を買っていて、辞める言うたら嫁さんに「そんな高いもん買うて、はや辞めるんな。舐めとんか!返してこい!」と言われ・・・、それで辞められんようになってしもうたんです(笑) それからもう16年、続いてます。

二胡を弾くことは仕事に良い影響がありそうですね
中山さん

気分転換にもなるわの。仕事しよったら石で怪我することもある。忙しい時に限って石が飛んできて、ここでのたうちまわったりする事もあるんです。だから忙しい時には必ず朝、二胡を弾いて、それから昼休みに石匠の里に行って弾いてまた仕事して、仕事終わって晩に弾いて・・・。二胡で切り替えてるんです。そしたら気持ちが落ち着く。切り替えには丁度えぇ楽器やと思います。暇なときは暇なときでダラダラ一人で弾っきょる(笑)。

16年も続けよったら、老人ホームや公民館とか、小学校や中学校、幼稚園・・・色んな所に呼ばれて弾くようにもなって来るんです。今は年に七回から八回ぐらい・・・かな。そしたら嫌でも練習せないかん(笑)。演奏会の前になったら「なんで請けたんやろう」と思いながらも、折角呼んでくれたんやから、と頑張っりょります。今年もクリスマスイブにバプテスト教会で弾くことになっとります。弾くことだけじゃなく、そういう機会も、やっぱり気分転換になってます。外の空気吸っていろんな人と話しして・・・。その中で色んな人とやっぱ知り合いになるんも楽しいです。

インタビュー後半に続きます

インタビュー後半はこちら。産地の話や庵治石の話、そして「むらおこし特産品コンテスト」などで賞を獲った『庵治石の石臼』についてお話を伺っています。

石屋の仕事は「失敗しながら学んでいくしかない」 ─ 中山忠彦さん(後編)

中山忠彦(なかやま ただひこ)さん

1956年生(66才:取材日時点)

中山石材工房
山梨大工学部卒業後、ゼネコンに入社し、道路工事・トンネル工事の現場監督を務めていたが、27才で地元に戻り、30才になったのを機に父と同じ石工職人の道を歩む。 産地でも数少なくなった、『丸物』に特化した石材加工を行う石屋さん。
担当しているAJI PROJECT商品
BOTTLE (L / S) / CAVE / BEACON VASE(L / S) / POUND / QUATER
プライベート
子どもの頃からモノを作ることが好きで、墓石中心の産地でクラフト制作をメインにしている数少ない職人さんの一人。「平成22年度むらおこし特産品コンテスト」中小企業庁長官賞などを受賞した庵治石製のコーヒーミルは海外でも人気のアイテム。また50才で始めた二胡演奏も各所で公演を依頼される程の腕前。